272点すべての「好き」と向き合った5時間〜第13回 審査会レポート

9月末、伊佐ホームズ 駒沢住宅で、第13回世田谷児童絵画コンクールの審査会が行われました。
お昼過ぎに始まった審査は、途中に短い休憩をはさみながら、日が暮れるまで約5時間。審査員の先生方は、応募された272点すべての作品に何度もくり返し目を通し、受賞作品を選びました。
その一日の様子と、審査を終えた先生方のことばをご紹介します。
名前を伏せて、床に並べる
審査会の会場には、応募作品が床一面に並べられます。作品には描いた子の名前がわからないようにしてあり、審査員の先生方が手にするのは、作品のタイトルと学年、そして「その場所が好きな理由」だけです。
先生方は作品の前に立ち止まり、少し離れて全体を眺めたかと思うと、近づいて細部をのぞき込み、ときには床に膝をついて、一枚一枚と向き合います。描かれた場所や描き方の工夫だけでなく、何年生の子が描いたのか、なぜその場所が好きなのか。添えられたことばも読みながら、その絵が生まれた背景まで受け取ろうとする姿勢が印象的でした。


「落とすのではなく、上げる」
このコンクールの審査で大切にしているのは、「落とすのではなく、上げる」という考え方です。
先生方は一枚ずつ作品を見ていき、「上にあげたい」と感じた作品に手を挙げます。これを、すべての作品について繰り返していきます。手が多く挙がった作品は受賞の候補として集められ、あらためてじっくりと見直されます。
会場にはときおり笑い声も聞こえ、なごやかな会話が交わされます。それでも、作品に向けられる眼差しは真剣そのもの。気になる作品の前では先生方の足が止まり、自然と意見が交わされていきます。


付箋に込める一票
候補が絞られてくると、先生方は一人ひとりが限られた数の付箋を持ち、「これは」と思う作品に貼っていきます。



壁に貼って、もう一度見る
上位の賞の候補となった作品は、白い壁に貼り出されます。床の上で見ていた作品を、壁に掛けて、展覧会のように少し離れた場所から見る。見え方が変わることで、一つひとつの作品の個性が、あらためて浮かび上がってきます。
先生方は壁の前で作品を見比べ、意見を交わしながら、最優秀賞をはじめとする各賞を決めていきました。
審査が終わるころには、窓から差し込む光は夕方の黄色みを帯びていました。


審査を終えて 先生方のことば
すべての賞が決まったあと、先生方がそれぞれ今年の審査をふりかえりました。

坂口寛敏(東京藝術大学美術学部油画科 名誉教授)
今年も最優秀賞を決めるにあたって、候補作を実際に壁に貼り、先生方と見比べたことがよかったと語った坂口先生。そうすることで、一つひとつの作品の新しい面や、表現の個性が際立ってきたといいます。
「私自身も毎回、目を見開かされているんですよね」
審査員は受賞作品の講評も書きますが、それは写真を見て書くのではなく、原画に出会ったときの印象をもとに自分のことばで書くもの。「写真は、それを思い出すための道具」と坂口先生は話します。審査会で原画と出会って賞を選び、展覧会でふたたび作品と再会して、あらためて気づかされる。準備に携わる方々の力も含めたこの仕組みこそが、コンクールが年を重ねて続いてきた理由だと語りました。
橋本善八(世田谷美術館 館長)
「自分の部屋に、小さな額に入れて飾りたい」。橋本館長は、そう思える作品にたくさん出会ったといいます。
一方で、賞をつけることには心苦しさも残ると話しました。賞に選ばれなかった作品の中にも素敵なものがたくさんあり、ひとりで推し続けたものの届かなかった作品もあったそうです。 だからこそ、これからも作品を出し続けてほしい。その気持ちを強くもった時間だったと語りました。


小泉俊己(多摩美術大学美術学部絵画学科 副学長・彫刻家)
「すべての作品から、情熱やエネルギーが刺さってくる」。だから審査はとても疲れるのだと、小泉先生は笑います。
人は年を重ねるほど、いろいろなものが身について自由さを失っていくもの。それは審査員も同じだと話す小泉先生は、子どもたちの絵にあふれる自由さに目を向けます。
生成AIが身近になった今だからこそ、自分の手を動かし、身体を使って感じることがとても大切だと語りました。
福井利佐(切り絵アーティスト)
福井さんにとって今年は、受賞作品を絞り込むのがとりわけ難しい回だったといいます。例年は上位の作品がある程度見えてくるものの、今年はどの作品にもそれぞれのよさがありました。似た場面を選んだ作品が重なると、よく描けていても選ぶのが難しくなる。そんな悩ましさもあったそうです。
それでも、選ばれるべき作品は、先生方が最後まで見て、きちんと拾い上げてくれる。満場一致で決まってよかったと話しました。子どもたちがここまで描けるのかと、あらためて驚かされた回でもあったといいます。


伊佐裕(伊佐ホームズ 代表取締役社長)
先生方の広い視点から学びながら、自分の目を確かめる。伊佐にとって審査会は、そんな時間でもあります。
「13回目ですが、毎年毎年、新鮮な驚きと感動があります」
並んだ作品からは、今の社会の中で子どもたちの心がどう動いているのかが見えてきて、一人ひとりと対話したくなると話しました。奥行きのある絵、直感的にデザインしてしまうような絵、丁寧に描き込まれた絵。さまざまな描き方が、この中に表れています。
金子京子(伊佐ホームズ ギャラリー櫟主宰/コンクール全体統括)
審査員ではない自分の役割は、子どもたちが伝えたいこと、感じたことを、先生方へつなぐこと。今回も、子どもたちのエネルギーを届けられたのではないかと、高揚感と満足感を語りました。
昨年に続いて応募してくれた子、一年休んでまた戻ってきてくれた子、はじめて出会った子。子どもたちの成長が何よりうれしいといいます。 ボランティアのみなさんと一緒に、この絵画展をみんなで育てていく。14回、15回と、これからも続けていきたいと結びました。

審査会を支える、アンバサダーのみなさん
審査会がスムーズに進められるのは、「アンバサダー」と呼ばれるボランティアスタッフのみなさんのおかげです。
応募作品の整理や審査資料づくりといった事前の準備はもちろん、審査会の当日も大忙しです。作品を床に並べては片付け、また次の作品を並べる。先生方が手を挙げた数をひとつも取りこぼさないよう確かめながら、作品を整理していきます。先生方が作品と向き合うことに集中できるのは、アンバサダーのみなさんの細やかな心配りがあってこそです。
アンバサダーのみなさんの多くは、かつてこのコンクールに応募してくれた子どもたちのご家族や、そのつながりの方々です。年を重ねるごとにチームワークも深まり、今ではこのコンクールになくてはならない存在になっています。
坂口先生が「準備に携わる方々の力も含めた仕組み」と話していたように、アンバサダーのみなさんの力なくして、このコンクールは成り立ちません。この場をお借りして、心よりお礼申し上げます。



\すべての受賞作品がご覧いただけます/

\「ぼくの町、私の好きな場所、絵画展」がはじまります/
駒沢住宅・ギャラリー櫟で開催する絵画展〔第1期〕では、受賞作品を含む、ご応募いただいたすべての作品を展示します。一枚一枚に、子どもたちの「好き」があふれています。ぜひ会場で、実際の作品をご覧ください。
「ぼくの町、私の好きな場所、絵画展」
2026年10月19日(月)〜11月8日(日)
伊佐ホームズ 駒沢住宅・ギャラリー櫟



