信頼と共感をつないで
生み出していった7軒の家
菊池健藏さんを訪ねて
菊池健藏さんを訪ねて
長いおつきあいをさせていただいている稲田光博と福井英晴が訪問しました。
中からはワンちゃんの賑やかな声。奥さまの知恵美さんとともに3匹の可愛いトイプードルたちが出迎えてくれました。
お兄さまがはじめたデザインの勉強会を、ファッションの専門校バンタンデザイン研究所へ、さらにゲーム、料理、美容などへと分野を広げ、大きく育て上げた菊池さん。伊佐ホームズで建てた家は、今のお住まいが6軒め。次いで3年前には大磯に別荘もできました。
「昔はマンションばかり何十軒と住んできました。短いと2年程度で転々と。“自分の家”というものに飢えていたのかも。今はここと大磯を行き来する日々が楽しいですね」と菊池さん。
音響抜群のAV機器や大きなソファを誂えたリビングで、これまでの7軒への思いを、ともに語り合いました。
教育産業トップの判断の速さに
私たちも鍛えられた19年間
菊池健藏さん(施主・元バンタン代表取締役社長)
稲田光博(伊佐ホームズ取締役副社長)
福井英晴(伊佐ホームズ取締役)
稲田:このお住まいが完成してから3年半になりますね。住み心地はいかがですか?
菊池:いいですねぇ。ここはやたらと人が訪れてくれるんですよ。飲み会もしょっちゅう。カウンター式のダイニングでは僕の飲み仲間、仕事仲間だとリビング。奥さんが教えている着付けの仲間だと和室。集まる場所もなんとなく決まってきました。
稲田:最初に菊池さんとお会いしたのは、湯河原にお持ちだった別荘にゲストハウス(湯河原眺望別荘)を増築するというお話でした。
菊池:そう。僕はずっと都心のマンションにあちこち住んできたんですが、40代の時に体調を崩し、養生しようと、湯河原の高台にあった数寄屋造りの住宅を買ったんです。行くたびに山に登り、健康を取り戻しました。それからまわりの土地を少しずつ買っていって千坪くらいに増やしたんですよ。
福井:道を隔てた土地も購入すると、市道も取り込まれて広く使えるんですよね。
菊池:遊びに来る知人も増えていました。それで敷地にゲストハウスを建てようと。伊佐ホームズは知人の紹介でした。
稲田:早速、福井とヒアリングにうかがいましたが、私の記憶では、ご要望は全く出されませんでした。なんて自由にやらせていただけるのかと驚きました。そして2案をご提案したところ「どっちがおすすめ?」と。「こちらです」と言うと「じゃそれで」。平屋で2寝室のゆったりとしたつくりでした。振り返ると、既存母屋の屋上と同じ高さの庭続きという提案を気に入っていただけたのでしょうか。
菊池:そうそう。瓦を使った擁壁もよかったですね。
福井:コンクリートではおもしろくないと思い、淡路の山田脩二さんに瓦を特注しました。普通はいろいろ要望をお聞きしてつくっていくんですよ。けれど菊池さんは何もおっしゃらない。バンタンという教育機関のトップをしてこられ、建築でも我々を育ててくださったのかと。
菊池:ああ、そういう気持ちも若干あったかも(笑)。
稲田:竣工の時、菊池さんが、「福井さん、喜んでくれた?」とおっしゃって。これ、普通は立場が逆ですよね(笑)。次には茶室(素心庵)を新築、母屋を改修、さらに母屋も建て替えて(KIKUCHI HOUSE)。どう楽しんでおられましたか?
菊池:湯河原の別荘地ではいちばん標高が高い場所でまわりは大自然。家で過ごすだけでも気持ちいい。友人たちもしじゅう来ました。外国人の知人は仲間とオートバイでツーリングして、朝ごはんを食べに寄ったり。茶室も海外の方をもてなすのにずいぶん喜ばれましたよ。
稲田:景色もよくて最高の立地でしたよね。
菊池:ゲストハウスの屋上には小さな小屋もつくってもらいましたね。朝の光の中で朝食を食べて。夜もいつもそこで過ごしていました。
湯河原眺望別荘(2005年竣工)
土地探しもお手伝い
福井:その後もおつきあいが続いたわけですが、どういう点を評価いただけたのでしょう。
菊池:まずは素材感のよさですね。木の仕事にこだわっていて。それが僕の感覚にとても合っていたんです。もうひとつは信頼感。担当された皆さん一人ひとりのお人柄を含めてですね。
稲田:会社を離れられた後の不動産に関する資産運用までもおまかせいただいたのは……。
菊池:こちらは不動産には全くの素人だからわからなくて。プロである伊佐さんにまかせちゃば安心だと思ったんです。
稲田:そして湯河原の次につくったのが都内のお住まいでした。
菊池:それまではずっとマンション住まいでした。気に入っていたんですが、犬は2匹までという規約で、ウチの子たちの仔犬も一緒に暮らすには、自分の家を持つしかないな、と。
稲田:マンション売却や土地探しのお手伝いをさせていただいてつくった「テラス恵比寿南」が私たちで手がけた5棟め。今と同様、下層階は賃貸でした。その次がこの「テラス代官山」。
菊池:恵比寿南はね、建物はよかったんですが夜も周辺が賑やかで。それで売却と次の土地探しを依頼しました。今は一室を僕の事務所にしています。
稲田:このお住まいも、ご要望はほとんどなかったですね。
菊池:そう。伊佐さんの仕事はもう信頼していたし。お願いしたのは、玄関の引き戸とキッチンのサイズ感、カウンターテーブル式のダイニング、壁面に鏡をつけた和室くらいかな。
福井:しかも私たちのご提案にいつも即断即決なんですよね。
菊池:家具もほとんどお願いしていますしね。たとえば僕が望むサイズの革張りソファとかは既製品にはないんです。伊佐さんがイギリスにオーダーしてくれたし、ほかにもサメ革を張ったローテーブルやいろいろ。
湯河原 KIKUCHI HOUSE(2013年竣工)
数寄屋住宅を入手して改築。
建てて知った“家の味わい”
福井:2年前に建てられた大磯の別荘が7軒め。ここも、家具やファブリック関係など、たくさんのしつらえも手がけさせていただきました。
菊池:湯河原の別荘を売って大磯に移ったのは、僕もそろそろ山を歩くより、海に近い場所で週末を過ごそうと思ったから。ここも伊佐さんに土地を見つけてもらって 週間で決めました。
稲田:この時も、菊池さんの決断の速さに驚きました(笑)。
福井:ご要望も、玄関にお父さまが揮毫されたお軸を飾りたいというくらいで。
福井:そうです!建具を閉めておけば小間の茶室、開ければ仏間というご提案をしました。
菊池:本当によくつくってもらえました。浴室には湯河原の湯を運んで楽しんでいますよ。
稲田:これまでの7軒、私たちは菊池さんに育ててもらったと思います。よい仕事をさせていただきました。
菊池:何棟もお願いした中で、“家の味わい”というものがよくわかりました。この先にまたつくるとしたら……駅ビルかな。
稲田・福井:ええっ
菊池:50年来の夢なんです。いろんな機能を集めて若者たちに開放したいの。地階にプールとかね、ずっと考えていました。
稲田:素敵ですねぇ!実現を楽しみにしています。今日はありがとうございました
大磯茶屋町菊池別邸(2016年竣工)
東海道筋から少し上がった高台に建つ、菊池さんが現在使っている別荘。
—『伊佐通信』11号(2019年)より転載—