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シンプルな構成が醸す、上質と気品

宿河原の家

宿河原の家

石を敷き詰めた広い前庭から、誘導するように白い敷石が続きます。一角にあるカツラの木の横には、大きな石造りの文人像。
正面には垂直と水平だけのラインで構成された、コンクリート打ち放しの建物。エントランスの奥に、緑の植栽も見えます。
関山邸は、美術館と間違えられるというのも納得するような、気品と威風を備えた家です。
この敷地は、もともとご主人の実家に隣接する畑でした。離れた場所に住んでいた関山さん一家は、両親が高齢になり、またそれまでの住まいに区画整理がかかったことから、二世帯住宅を建てることにしました。

アプローチ横の木陰に佇む文人像。韓国のもの

建てるなら伊佐ホームズに決めていた、と夫人。「20年以上前から気になっていました。娘が小学校に行く道沿いに、素敵な家があるなぁと思っていたのが瀬田モデルハウス。義母も昔からよく知っていたそうですし、伊佐社長のお人柄にも惹かれました。他は全く考えませんでしたね」

白い敷石は玄関へと続く。小さな黒い御影石を張った部分は駐車スペースにもなる。

関山さん一家5人と両親、そしてそれまで両家で飼ってきた愛犬・愛猫たち。皆が暮らす家への要望は、次のようなものでした。まず、それぞれのプライバシーを保ちつつ互いの様子を感じられるように。そして人間だけでなく犬や猫にも快適に。料理好きな夫人のためにキッチンは広く。子どもたちのものや好きな食器などの収納部を多くとり、また、大勢のお客様が集まるにもよいように。敷地の両側に立つ工場と集合住宅からの視線をはずす必要もありました。

「そしてもうひとつ、コンクリート打ち放しにしたいというのが主人の希望でした。古い木造の家で育ち、小さい頃からずっと憧れていたそうなんです」

中庭から見た子世帯のスペース。竣工時に撮影。

松越しに見た親世帯のスペース。竣工時に撮影。

親世帯へと向かうアプローチ。

敷地面積が400坪を超えるこの家の場合、設計に制約はないといっても過言ではありません。贅沢な悩みではありますが、そこには別の難しさもあります。通常ならば、周辺環境や敷地などの諸問題を解決することが設計のよりどころになるけれど、この家は何をテーマにするべきなのでしょう。

結論はごくシンプルなものでした。「南に面して陽当たりの良い家をつくる」。設計者は「ある意味、あたりまえですが、なかなか実現の難しいこの方針が出た時点でこの住宅のほとんどは決定したといえます」と振り返ります。平面は中心に矩形の中庭を設けたコの字型として、コンクリートの構造も単純なかたちに。そのうえで、プライバシーや外部とのつながりがきめ細かく考えられました。

駐車場を兼ねた前庭は二世帯双方のエントランスに通じます。関山さん一家が暮らす子世帯は、多くのお客様もいちどきに使える広い玄関ホールを上がると、中庭に面して吹き抜けのリビングがあります。

ダイニングとリビングを仕切るガラスはグラデーションになっている。犬の視線を防ぐ役割も。

リビング吹き抜けの見上げ。

リビングは壁側の半分が吹き抜けとなっている。右手に中庭がある。

100人もの来客を集めるホームパーティでは、中庭も一体となって多くの人が行き交うそうです。リビングにはカクテルを学ぶ娘さんが、客人のために腕をふるうバーカウンターもあります。ふだんは扉を閉めて隠し、特別な日のためのサプライズにするという趣向です。

キッチンもまた広々。ガスとIHの2か所のコンロ、大きな埋め込み型オーブン、調理道具や食器をすべて隠せる収納など、充実の機能はプロの厨房さながら。「フレンチ系のおもてなし料理が得意」という夫人の腕がうかがえるようです。
キッチンの奥はプライベートなゾーンです。関山さん家族が過ごすセカンドリビングとコレクションの並ぶプレイルーム、そして扉を開けた先に両親が住む平屋の棟があります。2階には中庭を見下ろす、日当たりのいい子供室や寝室が並びます。

リビングのキャビネット。シンプルなデザインで、収納力は抜群。

右手の収納家具の向こうがダイニングとなる。キッチンはアイランド式。

親世帯のリビングは、建物の南側にある庭に面しています。砂利とタイル、石だけで構成した中庭に対して、こちらは以前の家から運んだ松やザクロの古木など配した、どこかモダンな和の庭です。木々や石の配置などはご主人の母上がひとつずつ庭師に指示したものだといいます。

親世帯の庭。以前の雰囲気も踏襲した。

「義母にはインテリアに関してもずいぶん相談にのってもらいました」と夫人。母上は文雅に造詣が深く、表具師に頼んで和室の襖に手持ちの着物地を張るなど楽しんでいます。遊びが足りないと見たのか「銀色のボールペンを買ってきて、自分で蛾を書き足したのよ」とにっこり。
闇に浮かぶ松の木と、鱗粉をまき散らして舞う蛾の群れ。それは見事な作品に仕上がっていました。
親世帯では小ぶりの窓がいくつか中庭側に開かれています。子世帯からは、庭を通してさりげなく両親の気配を感じられます。それぞれに玄関やキッチン、浴室も持つ、独立した生活ですが、行き来はひんぱんだそう。両親の毎晩の食事は夫人が親世帯に行ってつくります。月に数回は集まって、関山さん宅の子どもたちを含めた三世代で食卓を囲みます。

コンクリートと石と木と。3つの素材がつくり出すこの家の空気は清涼です。「うちにいらした方はなぜか皆、入ったとたんに、ああ気持ちいいって言ってくれるんですよ。そこに住んでいる私たちももちろん快適です」。

中庭には大きな石のベンチがあります。夫人の実家の海の別荘にあった硯石を、なにかに使えないかと設計者に依頼した結果です。
「そうやって皆さんに使ってもらえる形で生かせたのはうれしいですね。ふだんもリビングから正面に見えて。窓辺の椅子に座り、誰もいない石だけの中庭を眺めて過ごすのも大好きです。なにか落ち着くんですよ」
そんな一つひとつの配慮が、日々の暮らしに喜びをもたらす、と語る夫人。「秋には庭で、初めてのバーベキューパーティも」。住まいを楽しむ計画はこれからも次々とひろがっていきます。

母上が自ら蛾の絵を描き加えた襖。

庭ともつながるリビングは、お客様の多いパーティーにも最適。

宿河原の家
【竣工】平成22年2月
【構造】RC造2階建て
【延床面積】663.20m² (200.62坪)
【取材】平成24年8月
施工事例「宿河原の家」