伊佐ホームズ 職人列伝 冊子『伊佐通信』11号 令和元年5月発行より

大工 黒沢松雄さん・真治さん

大工 黒沢松雄さん・真治さん
「ふたりで写真なんて撮ったことないよ」と照れまくるところを、頼み込んで撮らせていただきました。休みの日は何をしているのかと聞くと、松雄さんは「見積もりやったり加工図書いたり」。真治さんは「次の仕事の段取りしたり」。それって休んでなさそうですね。

「こだわり過ぎないこと」が   
    信条です。

工事が進む改修現場には、真新しい柱と古い柱が混じっていました。見上げると、古い梁も何本かが補強されています。

横浜市戸塚にある日蓮宗の寺、妙法寺。七百年の歴史を誇るこの寺のご住職は伝統や本質を守りながらも、現代に必要とされるお寺の姿を求めて建物の改修を計画。伊佐ホームズにご依頼をいただきました。はじまりがこの築43年の寺務所棟。玄関土間の開口部をガラスに変えて大きく広げ、深く庇を出し、訪れる人々をあたたかく迎えるようにすることが大きな目的です。

棟梁は黒澤松雄さん。16歳から修業し大工になって50年、伊佐ホームズとのつきあいは20年を超えるベテランです。図面に従って新しく柱を立て、不要な柱は撤去し、その分必要になった部分には補強を入れています。

段取りは難しいのではないかと聞くと首をふり、「どんな建物だって、きれいにやっていけばいいんですよ」とこともなげ。

古い梁に新しいベイマツ材を付け足す松雄さん。
/松雄さんの道具の一部。上手前の鉋は「鶴ヶ城」「千代鶴貞秀」といった銘品。
/砥石には般若心経の一文が。花梨の台に付けられた銀杏面(ぎんなんめん)も見事です。

高校卒業後、やはり大工の道に入ったご子息の真治さんも共に働いています。仕事で大事なのは、「工期と仕上がりと予算」といい、「遊びでやってるんじゃないですからね」と笑う顔には、厳しい姿勢を感じさせます。

ふたりの道具を見せていただきました。鑿(のみ)も鉋(かんな)も見事に手入れされて光っています。「うまく研げれば切れ味がよくなって、加工もやりやすくなりますから」と真治さん。

なかでも驚かされたのが、松雄さんの研石(といし)。花梨(かりん)の台を自分で取り付け、側面には般若心経の一文が書かれています。「こだわりすぎるな、って意味です」。

それは、努力を続け、高みを目指す人の言葉に聞こえました。