今井トゥーンズさん・福井利佐さん
「阿佐ヶ谷のアトリエ併用住宅」施主
「阿佐ヶ谷のアトリエ併用住宅」施主
生活の場と仕事場を分け、アトリエも別にして
創作の時間は没頭しています
今井トゥーンズさんと福井利佐さん夫妻がアトリエのある住まいを建てたのは12年前(2022年取材)。
伊佐ホームズとのご縁は駒沢にお住まいだった頃に始まりました。
「散歩の途中にある駒沢住宅が気に入って、ギャラリー櫟にもふらりと立ち寄っていました」と今井さん。
いまでは福井さんに伊佐ホームズ主催の『世田谷児童絵画コンクール』の審査員を務めていただいています。
小さな家のようで実は?
タネを明かすと、敷地が旗竿状で、道からは竿の部分の間口だけが見えているから。旗の部分はメガホン状に広がる形に沿って建てられ、ヤマボウシが枝を伸ばす中庭もあります。四方を隣家に囲まれていても光と風が十分に入り、プライバシーが守られています。
職住一体の家のポイントは、家族の生活の場と仕事場をフロアと動線で分けたこと。地階と1階は仕事場、2階から上はプライベートな部屋で玄関も2つ。
「仕事の打ち合わせ中に子どもが学校から帰ってくることもあるので、分けて正解でした」。
仕事場の玄関を入ってすぐの打ち合わせスペースには、壁が傾斜した大きな黒い箱が。なんと中にはミニシンクと食器棚、冷蔵庫、反対側にはトイレが。今井さんのアイデアを具現すべく、足元に間接照明を仕込み、宙に浮かぶように見せた力作です。
アトリエは2つのスペースに分かれ、コックピットを思わせるガラス張りの空間ではデジタル制作を、土間では様々なアートワークを行ないます。
写真の作品『私たちの食物は高い所にある』はペンとアクリル絵具で描かれたもの。鳩とカラスの精緻な描写に目が釘付けになりました。
「日本では東日本大震災と福島の原子力発電所の事故を契機に、経済的な格差や社会的弱者への厳しさが浮き彫りになりました。子どもたちが生き抜くうえで欠かせない『食べ物』を通して、現代の様相を映し出した作品です」と今井さん。
中庭の緑が目の癒やしに
一方の福井さんの仕事場は座卓を作業台にした床座スタイル。
モノトーンの切り絵を制作する場合、紙に細密な下絵を描いた後、アートナイフで白地の部分を切り抜いていきます。切らずに残した約1ミリの黒い線が切り絵を形づくるわけです。
集中力が求められるため、「一度に作業できる時間は長くて3時間が限界」とのこと。窓に広がる中庭の緑は目の癒やしになります。
福井さんの代表作のひとつに、様々な人の顔を表現した『個人的識別』シリーズがあります。細かい皺のようにも見える無数の黒い線で構成され、表層ではわからない面が浮かび上がってくるようで、どきりとさせられます。
「顔の皺をたどると、その人の人生や職業、住んでいる環境まで表れるように思います。そんな内面まで絵に表現できるといいですね」と福井さん。
そんな当時の経験が「髪の毛のように細い切り絵の線や、刃物で『切る』という手法、写実的な表現と結びついて作風に影響を与えているんだと思います」。
—『伊佐通信』13号(2022年)より転載—
今井トゥーンズ(いまい・とぅーんず)
イラストレーター/アーティスト
多摩美術大学美術学部研究科修了後、MTV「TOPOFJAPAN」OPアニメーション、サントリー「C.C.Lemon」CFキャラクターデザインなどパッケージや広告のアートワーク中心に活動。2004年には劇場アニメ『DEAD LEAVES』企画・原作を手がける。ほかにも花村萬月の小説『GA・SHIN! 我・神』装画・挿絵などの書籍、国内外の企画展示での作品制作など活動は多岐にわたる。
https://www.instagram.com/imaitoonz/
福井利佐(ふくい・りさ)
切り絵アーティスト
多摩美術大学デザイン学部グラフィックデザイン学科卒業。中島美嘉のCDジャケットアートワーク、Reebokとのコラボレーションスニーカーや手塚治虫×福井利佐byUNIQULOでのTシャツデザイン。桐野夏生、木内昇の小説への挿画や装丁など、多方面で活躍中。「かがくのとも」では「、むしたちのおとのせかい 」2019年7月号に続き、2022年11月号(福音館書店)で「、からまつ」の作画を担当。
https://risafukui.jp/