お打ち合わせや現地調査を経て、伊佐ホームズが提案したプランは、最初の段階でほぼ現在の形に近いものでした。
木造二階建てで、ご夫婦の寝室、子ども部屋を一階にとり、二階はトイレ、洗面所、浴室をコンパクトに配置し、それ以外はすべてリビングダイニングキッチンとして、1フロアでの広さを充分に確保しようというものです。
設計担当者は言います。「広いに越したことはないとは誰しもが考えます。しかし私たちはそこに疑問符を付けました。広さや部屋数を優先すれば、3階建てという選択肢もあり、合計45坪の建物になります。しかしM邸は3人家族です。快適に暮らすために本当に必要なのは、どのくらいの広さが適切なのかを考えました」
では、明るさの問題はどう解消したのでしょうか。寒さの問題は?
ここからはM邸の細部をご紹介しながら、それらの問題をどのように解決したのかを見ていくことにしましょう。
奥が南側となる。右奥がキッチン、手前がダイニングである
生活の中心は二階のリビングダイニングキッチンです。毎日の食事、くつろぎのひととき、来客の接待が、すべてこの場所で行われます。まず、ひときわ目に付くのが大きな窓。
実はこの部分は、表通りから続く約2メートル幅の私道部分に面していて、M邸の敷地内で唯一、南側に開かれた場所なのです。日光はこの窓から一気に取り込まれ、二階全体を隈なく巡ります。
そして、階段から通じる格子の採光扉やキッチンの小窓に加えて、ダイニングにある天窓が補助光となり、部屋全体を明るくしています。これなら昼間照明を点けることはないでしょう。東西南北に窓があるため風通しが良く、冬は暖かく、夏は涼しい、理想的な生活空間が生まれました。
さらに快適さを語る上で、一番に注目したいのは床材です。M邸ではすべての床に、厚さ30ミリのスギを使用しているのです。
実はスギは、数年前までは、床材としてはあまり使用されていませんでした。スギ、マツ、ヒノキなどの針葉樹は材質が柔らかく、傷が付きやすい点が嫌われ、いわゆるフローリングに使用されている床材の多くは、硬く、傷が付きにくい広葉樹が主流になったのです。ではなぜ、傷が付きやすいスギをあえて使用したのでしょうか。
設計担当者は言います。「柔らかいということは空気を多く含んでいるということです。つまり暖かい。フローリングは寒いという印象がありますが、元来古くから使われてきた針葉樹の長所を生かせば、そんなことはないのです。それに物を落として付いた傷なら、濡れ雑巾の上からアイロンを当てると、木材の持つ復元力で元に戻ります。自然の力を目の当たりにするのは、なかなか楽しい作業ですよ」
柔らかく、暖かい床は、長年寒い家に悩まされてきた奥様だけでなく、息子さんにも好評で、遊びに来た友だちとともに床を転がって、その感触を楽しんでいるとのことです。
また壁にも温もりの演出が施されています。
当初、壁は漆喰にする予定でした。階段からリビングに通じる扉を格子にしたように、和の感覚を生活の中に取り入れようという意図から「新築したら漆喰の壁」と決めていました。しかし、設計者の提案は、長時間過ごすリビングでは緊張感の高い漆喰より、表面に微妙な凹凸のある、シルタッチという珪藻土入りの壁材の方が柔らかい雰囲気になるとのことでした。また、調室効果も高い自然材料ということも気に入り、すすめられるままに決めました。建物が完成してはじめて、「柔らかい雰囲気」というものがわかりました。壁に当たった光がほとんど反射せず、落ち着いた空気を漂わせていたのです。

(延床面積:32坪)
( 後編 に続く)