第六回 施主・稲葉さんに聞く「入居後、半年経って」

高野山・本覚院の稲葉氏が新居での生活を始めて、約半年が経ちました。
当社スタッフは、代表の伊佐裕とともに高野山を訪れ、稲葉氏に新居の感想をお伺いしました。

格子の扉が住居エリアへの入り口。
格子の扉が住居エリアへの入り口。また、右上の大きなガラスの向こうに居住スペースがある。

〜新居に住まわれて、約半年が過ぎました。高野山の厳しいひと冬を越したわけですが、いかがでしたか?

 以前の住居とは違い、石油系のストーブに頼らず、ほとんど暖炉とエアコンだけで過ごすことができて、非常に快適でした。住居の中心は2階なので、(宿坊の)厨房がある1階の熱が上がってくるのか、とても暖かい。妻と子どもは、暖炉があるリビングにずっといましたし・・・。一旦、家全体が暖まれば、ずっとその暖かさが維持されるんですね。
 そして、驚いたのは、“熱くない”ことです。以前の家は、とにかく寒かったので、ガンガン暖房を焚いていたんですよ。だから、そこだけが“熱い”。でも新居は、空気がホワッと暖かいんですよ。この違いは本当に劇的でした。

〜オン(仕事)とオフ(プライベート)の時間にメリハリをつけたいとおっしゃっていましたが・・・

北側のルーバー部分。
北側のルーバー部分。木組みによって目隠しとなり、内側が見えにくくなる。なお、外構工事はこれから着手される。

 そう、もうひとつ劇的な変化といえば、プライバシーがしっかり確保できたということです。声が聞こえても見えない(見えにくい)という状態は、旧宅ではありえないことでしたが、自分の生活する空間が誰からも干渉されないで確保できていることは本当に大きな変化です。たとえば、居間から北側(玄関側)の外が望めますが、間に細いルーバーがあるので、外からはほとんど見えません。また、南側には階下がガラス越しに見えますが、1階からはほとんど見えない角度になっています。

 また、以前は住居スペースも仕事スペースも明確な境界がなかったため、オンとオフもありませんでしたが、新居になってからは、私のスリッパが住まいの入り口においてあることがひとつのサインなので(注:寺の建物と新居はつながっているため、外の玄関から入る必要がない)、お手伝いさんも、修行で居候している若いお坊さんも、誰も私を呼び出すことはありません。本当に理想的なくらい、プライベートな時間と仕事の時間を区別できるので、修行にも宿坊の経営にも集中することができるようになりました。

 現代的で、世間一般に言われる普通の暮らしがこんなにも便利で、質が高いものなのかと実感しています。本当に思い切って住居を新築し、非常に満足しています。(了)

コラム 当社代表・伊佐裕に聞く

「高野山・本覚院稲葉邸の仕事がもたらしたもの」

(聞き手)〜本覚院の住居が完成し、施主・稲葉氏が住まわれて半年が経ちました。いま、改めて仕事を終えて感じていることは?

(伊佐)そうですね、まず感じたことは、当社の“今後の指針”をいただいた気がします。 じつは、もう昔の話になりますが、大学受験に失敗して3ヶ月間ほど山寺で修行していたことがあるんですよ。尊敬する高校の先生の勧めもあって。
坊主頭にして、標高700メートルのお寺に行ったんですよね。檀家はなく、和尚さんと奥様だけで暮らしている寺です。
 そこでの生活は、朝は5時に起きて、夜は和尚の般若湯のお相手をするといったもので、電気はなく、ローソクの灯かりでの暮らしでしたが、若かった私に大変大きな影響をもたらしましたね。そう、学校では決して教わらない「生きる」ということを学んだんです。ついでにお酒も鍛えられましたけど(笑)。
その後、受験に再挑戦して、東京の大学に受かりましたが、今考えれば、あの山寺の経験があったからこそ、今、注文建築会社を営む自分がいて、そこで体感したことを生かして仕事の臨んでいるように思うんです。

次期工事となる風呂場部分についての打ち合わせ風景
次期工事となる風呂場部分についての打ち合わせ風景

 ちょうど会社設立20周年という節目に、稲葉さんの直感で当社にご指名を受けて、それに何とかお答えすることができたことは、非常に光栄に思っていますし、また、稲葉さんが“今にある伝統”というか“現代という時代を感じさせる伝統”というか、そういったものを目指しておられたので、何とか我々も仕事をやり遂げることができたように思います。そして、この経験は次の仕事へと必ずつながっていくと思っているんですね。

 4年ほど前だったか、吉野山の蔵王権現の前で勤行をしてもらったことをきっかけに、以来、毎朝座禅を組んでいます。朝の静かな時間に座禅を組むことを、自分にとって大切な時間にしているんですよ。 これは、自分を見つめる時間なんですね。その時間の中で、“限定された自分”ではなくて、“無限の自分”を感じるときがあるんです。そして、不思議なことに、その“無限の自分”を感じたときは、どんな困難もすべて乗り越えていける気がするんですよね。

 今、私どもの業界も決して楽な時代ではないからこそ、良いものを作ることを心がけなければならないと思っています。順風だったら、何も考えず日々を過ごしてしまうんではないかと。今年、伊佐ホームズで新たな不燃材ブランド「校倉」ができたのも、ある意味、この苦しい時代だからこそ出来たのではないか思っています。
 この「校倉」を使うことで、木のぬくもりを感じられる幼稚園であるとか、終末期を迎える方々のために、自分の自宅を思わせるような、とくに和風の家屋を思わせるような病院であるとか、公共施設にそういった新しい建築の可能性を生み出していくことが出来るのではないかと思っています。

 この高野山での仕事は、大変な大きな誇りであるし、近い将来、ここで培った技術が生かせるのはもちろんのこと、全国の腕の良い宮大工さんとのネットワークを作っていこうとか、伊佐ホームズの次の時代への分岐点に成り得た仕事であったのではないかと思っているんですね。(了)

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高野山での仕事

この建物は僧堂の一画に位置するこの寺の家人の住まいである見事な老杉を背に周囲は歴史的建造物群である。

私は、高野山と云う聖地で「空間」、「時間」の無限さに気づかされ日常の建築の仕事への姿勢が新たなものとなった。

伊佐ホームズ株式会社 代表取締役  伊佐 裕

本覚院に新築された多世帯住居

和歌山高野山に立つ古刹のひとつ、本覚院に新築された多世帯住居。標高およそ900m、濃い緑に囲まれた広大な敷地の中に位置している。設計に求められたのは、歴史ある土地にふさわしいものでありながら、若い僧侶のこれからの生き方に適う家のかたちであった。小国のスギ、優れた技をもつ職人によって、第一期工事は平成20年12月に完了、この春から総仕上げが行われている。

 

 

( 番外編 「施主・稲葉氏と対談」へ続く )

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